こんにちは
Smile Houseの妙加です。
吃音治療は「吃る話し方をスラスラと話せるようになることだ」と思いがちですが、実はそれだけではありません。
吃音治療で大きな影響を与えているのは、吃音に対する捉え方や不安や恐怖をどれぐらい感じているかといった心理的な要素です。
そのため治療は発音以外にも色々な面からアプローチしていく必要があります。
今回は、吃音治療の方法や大切なポイントをまとめました。
吃音の問題と治療方針
吃音を治療するためには、まず吃音にはどのような問題があるかを知って、適切なアプローチをすることが大事。
吃音は大きく分けて3つの問題があります。
1、話し言葉の問題
連発(り、り、りんごと繰り返すこと)、伸発(りーんごと引き伸ばすこと)、難発(・・・・とすぐに言葉が出てこないこと)というように吃る話し方のこと。
2、心理的問題
自分の話し方に怒り・悲しみ・恥ずかしさを感じたり、スムーズに話せない自分はダメだと自分を否定してしまうこと。
3、誤解や偏見といった他人の視線の問題
吃音を笑ったりイジメの対象したり、吃り=頭が悪い、うつるなど間違った認識で蔑んだり差別的な対応をされることです。
上記のことから吃音治療は、【吃りを治療する言語療法】、【吃音の受け入れ方を肯定的にする心理的アプローチ】、【自然なコミュニケーションが取りやすい環境設定】の3つの要素を組み合わせて行うことになります。
話すことに少し不自由はありつつも、日常や仕事には支障のない人もいれば、様々な要因が重なり人と話すことができず、生活に大きな問題を抱えている人もいます。
吃音はまだ明確な原因や治療法が確立されていないので謎も多いですが、解明されていることは知っておき、吃音とうまく付き合っていけるようにすることが、吃音の治療において大事になります。
吃音の治療法
吃音の治療法は大きく分けると
■吃りにくい話し方を覚えて身につけ、流暢な発話を目指す直接法
■吃音への捉え方や環境など吃音に悩む原因を改善して、正常な発話を目指す間接法
の2種類があります。
吃音の治療は医師と言語聴覚士や臨床心理士が連携して改善を目指していきます。
吃音の発話症状に対して治療する直接法
直接法は次のような方法です。
1、流暢性形成訓練
吃らない流暢な話し方を身につけて、日常で使えるようにする方法。
スムーズに会話できるスキルを習得する治療です。
2、吃音緩和法
正常な話し方を目指すのではなく、楽に滑らかな吃りの話し方を目指す治療。
吃ってしまう症状を避けるのではなく、少なくさせていきます。
3、総合アプローチ
流暢形成訓練と吃音緩和法の良いところをMIXした治療法で、症状と吃音者の目指すゴールに合わせて内容を組み合わせて決定します。
流暢性形成訓練の手順
流暢性形成訓練は、吃りにくい話し方を身につける方法で、吃ってしまう今の話し方とは違う話し方を身につけること。
8段階あるので、少しずつ難易度をあげて改善を目指します。
■1、発話のメカニズムを理解する
発話はどのように行われているのか?吃ってしまう仕組みは?などを説明してもらいます。
■2、話す前に息を吸う
話し始める前や会話の区切りで息を吸う癖をつけて、身体を発話しやすい状態にします。
口の中を広くして、舌の先端を下歯の後ろあたりにおき、身体の力は抜いてリラックスしましょう。
■3、ゆっくりと話す練習
早口にならないよう意識してゆっくり話す練習をします。
焦らずに話せるようになることが大事。
■4、優しく話す練習
話し始めの音を優しく、ゆっくりと発声して柔らかく出す練習をします。
■5、一呼吸で話す長さを調整する
一呼吸で話す量を減らして、話すときにたっぷりの息を使う意識をします。
例「今日のお昼は(息継ぎ)カレーでした」
■6、1フレーズをスムーズに話す
一呼吸で話せる短い言葉は、区切りなしで話す。
例「おはようございます」
■7、母音を伸ばして発声する
1つ1つの音を大切に丁寧に発生する練習。
課題文の母音を伸ばして発音します。
■8、発音を力まないようにする
力んで発音しているのを優しく話すように心がけます。
流暢性形成訓練はこのような流れに沿って練習をするのが基本。
練習する言葉は吃音者の状態に合わせて、1音、単語、短文、長文、会話と少しずつ難易度をあげます。
包括的に吃音を改善する間接法
吃音に対する考え方や自己肯定感といった心理的な問題を改善するのが間接法です。
1、発話環境を整える
吃音者と会話するときに望ましい環境の情報や、吃音の正しい知識を専門家が提供し、コミュニケーションをとりやすい状態をつくります。
主に幼児〜学童期におこないます。
2、系統的脱感作法
吃音に対しての不安や恐怖を和らげ症状の改善を目指します。
3、自律訓練法
吃音による身体の緊張を和らげたり、ストレスを軽減します。
発話に対してだけでなく、日常生活でのストレス軽減効果もあります。
吃音の治療は環境要因が重要
吃音は乳幼児期に発症することが多いので、「り、り、りんご」「りーーん、ご」と吃音の症状があらわれると驚くかもしれません。
そのときに良かれと思って「もっとゆっくりと話してみよう」「落ち着いて話そうね」と話し方を注意したくなるかもしれませんが、むやみな注意やアドバイスは吃音を悪化させる原因になると知っておきましょう。
吃音の初期段階では「話すのが嫌だ」「吃ったらどうしよう」といった気持ちは持っていません。
ですが、その段階から話し方に対して否定的に関わると、「話すと嫌な気持ちになる」「話すと否定される」というように、話す=嫌悪、恐怖といった思い込みができ、自分自身に否定的になってしまいます。
そうなると言葉が出にくくなり、結果的に吃音の症状も悪化します。
また、「もっとお腹に力を入れて」「最初を、えーーって言ってから話そうね」など話し方のスキルを教え込むのも、話すことに緊張を感じさせたり、自然な話し方をわからなくさせるので、症状が悪化する原因になります。
吃音の症状が出始めた頃は、吃音が悪化しにくく改善しやすい環境にしっかりと調整することが大事。
吃音に否定的な感情を和らげ、自然な発話・会話をした体験をたくさん積ませてあげれるようにしましょう。
この環境調整法の有効率は約60%と高く、非常に効果的で早く実践するほど治癒率もアップします。
言葉には干渉しない
言葉を細かく注意されるのは、吃音者にとって非常に大きなストレス。
例えば、丁寧に畳んだシャツを「5ミリずれてるからたたみ直してね」、「こっちは3ミリずれているからやり直してね」とシャツを畳むたびに細かく言われ続けるとストレスになりますよね。
そしてシャツを畳むとき、「キレイにしなきゃ」「完璧にしなきゃ」という意識が働くようになります。
それと同じように、言葉を発するたびに指摘されると、話すことにストレスを感じるようになり悪影響。
また、意識してガチガチの状態で発語させ続けると、次第に話すことに抵抗感が生まれ、発言自体が減ってしまい結果的に吃音の症状は悪化します。
子どもが吃音でも、言葉そのものへの注意は控え、話の内容や気持ちに意識を向けて会話しましょう。
子どもが自由に振る舞えるようにする
言葉に干渉しない以外にも、日常の中でも厳しすぎるしつけや過度の干渉をしすぎないようにしましょう。
子どもは養育者に「嫌われたくない」「好かれたい」という気持ちを持っています。
しつけが厳しかったり色々なことに過度に口出しされる環境は、ストレスがたまると同時に「自分はダメだ」「自分は愛されていないのかもしれない」といった心理状態を作り出します。
そうすると自分の気持ちを押し殺し話さなくなったり、「吃音の自分はダメなんだ」となってしまう可能性があります。
吃音治療は、たとえ吃ってしまうとしても自然に発話して「吃音でも大丈夫だ」「吃音でもいいや」と自分を肯定的に受け入れていることが大事。
自発的に自分の感情や考えを話せるような関わりをして環境を整えましょう。
愛着形成を意識する
愛着とは特定の養育者との間に結ばれる情緒的な絆。
「どんな自分でも愛されるのか?」「自分や他人のことは信頼できるのか?」といった人生の基盤となる基本的な信頼感のこと。
子どもの吃音に対して「なんとかしなくちゃ」「〜しなければいけない」とストレスを感じながら行動するよりも、子どもとの愛着をしっかりと形成することを意識して過ごす方が吃音治療の効果は高まり、今後の治療にも有効です。
吃音治療はメンタルが大きく影響する
吃音は幼児期に発症した場合、約50%は自然に治るとされていますが、成人になるまで症状が治らなかったケースでは完全に治癒することは難しいとも言われています。
また、治療を始めて1年で改善する子もいれば、10年以上かかる子もいます。
吃音治療は、吃音とどう向き合いつきあっていくのか?というメンタルの部分がとても重要で、逆にいえば本人が吃音を受け入れていれば、日常生活を過ごすのに大きな問題にはならない症状でもあります。
吃音者には、症状が重くても吃りに対して不安や恐怖が軽い人もいれば、症状は軽いけれど社会にでれないほど悩んでいる人もいます。
どれだけ発声が改善しても、「完璧にできていないからまだダメだ」と本人が思っていると、なかなか積極的に社会には出ていけません。
どの段階で納得するのか、納得してもらうのかといった線引きが難しいのですが、そこをきっちりと決めることも吃音治療ではポイントになります。
吃音は発音の障害だと思われがちですが、口や舌の問題ではなく言葉を発声する脳の働きがうまくいっていないことが要因です。
なので、呼吸器の使い方や口、舌の使い方を変えてみて話し方を工夫しても根本治療にはならないのです。
発声を訓練する直接法も大事ですが、特に幼児には発声訓練をしない間接法も並行しておこなうことが推奨されています。
脳が活動しやすい環境を整えることが症状改善に効果的だからです。
不安や恐怖を改善するには、少なくともその場面に直面し「自分は乗り越えられる」といった体験をして、その場面に対する印象や思い込みを変えていく必要があります。
少しずつで良いので行動してみて「やったらできた」と自信をつけたり、「吃音でも大丈夫」という認識をしていくことも大事になります。
【行動例】
・不安や恐怖を感じる場面をリスト化してみる。
・不安や恐怖を感じる場面に優先順位をつけて、簡単なところから慣れてみる
→人の集まるところに行ってみる
→講義で一番前に座ってみる
→挨拶をしてみる・・・など。
・身体をリラックスさせれる方法をマスターする
→呼吸法、ストレッチ、禅、瞑想など
・話さなければいけない場面で「吃りますが・・・」と前置きをして公表しておく
・吃ることに意識をとらわれ過ぎないよう、明るい表情・声で話し、明るく吃るようにする
吃音は早めに言語聴覚士を訪ねること
幼児期の言葉を話し始めるころは、言葉に詰まったり、なかなか出てこないことは誰にでもあります。
最初からスラスラと話せるわけではなく、言葉は徐々に話せるようになるので、その発達段階に適した発声をしていれば何の問題もありません。
明らかに発達から逸脱してくると吃音が疑われますが、本当に吃音なのか発達段階内のものなのか区別がつきにくいですよね。
そういう時は早めに言語聴覚士に相談してみましょう。
発達途中であれば一安心ですし、吃音であっても早めに発見できれば環境も整えやすく、適切な関わりをすることができます。